京都への通勤に2時間を要するため、私はその移動中ではほとんどの場合、本を読んでいる。
今までは世界史物やルポルタージュ、ノンフィクション、仏教書など比較的固い本を、理解度は別として読んできた。
最近では紙の本は避けて電子書籍で読むことが多い。100冊の本でも端末一台で済むからだ。
そんな私は昨年の秋ごろから小説の面白さに気づき、次に読む本を見つけるべくアマゾンのkindle unlimitedで興味の持てそうな分野の小説を物色している。
kindleのホーム画面に私へのおススメが表示されるが、基本的にはunlimited(有料読み放題)対応の作品を探すのだが、偏屈な私にはなかなか次に手に取るべき作品が見つからず、時間をおいては同じ作業を繰り返す。その都度ホーム画面が目に入る。
そんなことを繰り返していると、やたらと目につく表紙に気づいた。
「成瀬は天下を取りにいく」
端正な顔立ちの女子中学生の横顔が印象的な表紙だ。
「成瀬って誰やねん」と思いながら表紙をタップして詳細を見ると「青春小説」という文字が目に入った。
「青春小説?興味ないわ」とまたunlimitedで物色を続けるが見つからない。
ホーム画面に戻るとまた表示される「成瀬」。
気になってきた。
仕方なくタップしてレビューに目を通すと絶賛の嵐。
舞台は滋賀県大津市の膳所らしい。私の仕事でもかかわる土地だけに少し興味がわいてきた。
しかも「天下を取りにいく」はunlimited対応だった。
つまらないと感じたら本を閉じればいい、そう思いながら読み始めたのだが。
結果は予測不能な成瀬の行動、言動に翻弄され、気がついたら読了していた。
主人公成瀬あかりは子供のころより学業優秀、いろんなコンクールに出ては賞状をかっさらい、字を書かせれば達筆、けん玉の腕前も玄人と非の打ちどころない天才少女である。
同級生とはコミュニケーションをあまりとらず、何を考えているのかわからないため周囲の子たちからは気味悪がられ距離をとられる。だが成瀬自身はそんなことを屁とも思っていない。
そんな彼女と関わってしまった人たちの視点で物語が展開される。
普通なら上記のような人間は周囲を見下しがちであるが成瀬は人を見下さず、関わった人たちの長所をも認めるため胸糞悪くなることもない。
言葉遣いは「江戸時代の町人」を相手にするクールな侍のようで、敬語はほぼ話さない。
作中でM-1グランプリの予選に出場する場面がある。西武ライオンズのユニフォームを着て漫才をする予定だったのだが、相方の島崎がユニフォームを忘れたことに気づき、成瀬に平謝りするシーンで成瀬は怒りも焦りもせず「大丈夫だ、島崎」「ユニフォームがなくても漫才はできる」とこともなげに言い放つ。
普通なら絶望するか、怒るか、励ますようなシーンに「ユニフォームがなくても・・・」だ。この達観したかのような発言に全く嫌味がない。
今、二度「普通なら」と書いたが、つまり普通ではないのだ。
もう一例エピソードを挙げるが成瀬は高校の入学式にスキンヘッドで出席する。15歳の女の子なのに、だ。
普通ではないが、のちに理由も書かれている。
この予測不応な「普通ではない」という毒に当てられてしまい、続編二冊も即購入、即読破。
大津市のPRにもなっており、私もミシガンに乗ってみたくなったほどだ。
三部作で完結だそうだ。
成瀬は京大生になっていた。
だが、成瀬は成瀬だった。
京都店 川北